昨晩の忘年会は、副社長とのサシ飲みだった。
副社長からの誘いで、洒落た料亭に行くことになった。
副社長は私より一回り年上の74歳。
「瞬間湯沸かし器」と社内で言われるほど、短気で怒りやすい人物だ。
これまでにも彼に怒鳴られた社員は数知れず、パワハラで訴えると言っている社員も多い。
私も正直、少し緊張していた。
酒が進むと、話のほとんどは副社長の愚痴だった。
どうやら、他の役員たちから今後の進退についていろいろと言われているらしい。
人間関係の悩みが中心の話題だった。
なぜ私にこんな話をするのだろう?
おそらく、副社長は社内に敵が多いため、外様である私を信頼して話しているのだろう。
彼の言葉からは、"副社長"という中途半端な役職で終わりたくないという強い思いがにじみ出ていた。
組織に属するからには、最終的にはトップに上り詰めたいという欲が見て取れた。
人間の欲望は、年齢を重ねても尽きることがないものだと改めて感じた。
副社長は、東京大学の受験が中止された世代だ。彼も東京大学を目指して勉強していたが、その夢は叶わなかったらしい。不可抗力だから仕方がないが、彼にとってはこれが "中途半端な人生の始まり" だったのかもしれない。
私はアルコールが飲めないため、ウーロン茶を片手に話を聞いていた。
その分、冷静に彼の話に耳を傾けることができた。
私はキャリアカウンセラーなので傾聴し、彼の心の内を引き出した。
役員間のオフレコの話も多く出たが、話を総合すると、やはり組織のヒエラルキーは仕事の成果だけで決まるものではないと感じた。
すべては「好き嫌い」で動いているのだ。
挑戦をせずにそつなく仕事をこなす人間が、上司に気に入られれば、あっという間に出世する。
副社長も、社長に気に入られたからこそ、その地位に就いたのだ。
彼は最近、大きなプロジェクトを成功させたことで、自分が次の社長候補になると確信していたようだ。
しかし、横槍が入り、どうやらその可能性は潰されたらしい。
私は還暦を迎えてからこの会社に転職してきた外様の社員だ。
副社長の成功させたプロジェクトの一翼を担ったのは確かだが、社内の出世競争には関わりたくないというのが本音だ。
副社長から信頼を寄せられるのはありがたいが、社内の権力闘争に巻き込まれるのはごめんだ。
ただ、1人の老人のサラリーマン人生の最期を応援したいという気持ちはある。
愚痴を聞くことくらいしかできないが、それでも彼が元気を取り戻せるのなら、それが私の役割だと思った。