人事の発表があった。
私は職位定年まであと1年なので何の変化もなかった。
若い頃から役員になりたくて一生懸命仕事をしていた同僚がいる。
私より2つ下の57歳。
順調に出世をして、役員の一歩手前になっていた。
部下の面倒見が良くて、多くの社員から慕われている。
私は、てっきり彼が役員になると思っていた。
しかし、役員になったのは、違う人であった。
私より1歳下の58歳の人であった。
自分の点数稼ぎで部下に仕事を押し付けるだけの人である。
誰もが望んでいた人事ではなかった。
私は役員になれなかった彼にはずいぶん助けられた。
私は45歳で中途採用で入社したから、社内政治が分からずに、いろいろな古参の社員にいじめられた。
そのときに、助けてくれたのは彼であった。
私の実力を認めてくれていた。
本当に辛いときには励ましのメールをもらった。
人の気持ちが分かる人というのは本当にありがたい。
昼食を食べようと外を歩いていたら、後ろから声をかけられた。
役員になれなかった彼であった。
「あなたが役員になって欲しかった」と開口一番に私は言った。
「そう言っていただけると本当に嬉しい」と言われた。
彼は、1ヶ月前には、その人事を言われていたそうである。
この1ヶ月間はショックで立ち直れなかったそうである。
彼は5年間は役員になれないが、6年目にはなれるチャンスはある。
それを信じて頑張ると言っていた。
彼の気持ちを考えると涙が出てきた。
入社してから30年以上も目標を持って頑張ってきたことが、一瞬で崩れ去るのだから。
私は60歳の役職定年まであと1年。
その後5年間はヒラで仕事を続け、65歳まで働ける。
権限はないので単純作業になるのであろう。
消化試合になってしまうのは間違いない。
それなりの給与は保証されるが、それで良いのかと自分で自問自答している。
19歳で静岡の実家を飛び出し、紆余曲折あり、3回転職して4つ目の職場で働いている。
糸が切れた凧のような人生も、それなりに頑張ってきたという自負はある。
自分は一生懸命やることしか能がない人間のような気がする。
家庭が崩壊した現在、私から仕事を奪ったら、何も無くなってしまうような気がする。
どうせ孤独な老後になるのだから、65歳までもう一花咲かせたいという気持ちもある。
役員になれなかった彼の話を聞いていて、自分も挑戦したいと思った。
彼に元気をもらった気がする。