40年ぶりに当時通っていた銭湯に行った。
自宅から電車とバスで2時間半くらいかかった。
当時、私は19歳。
横浜で新聞奨学生をしながら浪人をしていた。
高校卒業と同時に静岡の実家を飛び出した。
実家にいるのが嫌だった。
布団と机だけを持ち出して、新聞販売店に転がり込んだ。
あれから人生いろいろあった。
還暦を迎えるにあたり、最近は終活の旅をしている。
銭湯は当時のまままったく変わっていなかった。
木造の築70年は超えているボロボロの銭湯。
銭湯に着いたのは17時。
1月下旬の17時は暗い。
銭湯の前で40年前のことを思い出していた。
下駄箱も当時のままである。
番台のお婆さんに490円を払って中に入る。
昭和の時代にタイムスリップした。
中もまったく変わっていなかった。
洗い場も湯船も変わっていなかった。
体を洗って湯船に入った。
45℃の熱めのお湯。
5人くらいのお客さんがいた。
熱いお湯に我慢して入っているうちに、40年前のことを思い出した。
実家を飛び出し、1人で見知らぬ土地で生きる心細さ。
新聞奨学生仲間と励まし合いながら生きていた。
台風の日も、大雪の日も、新聞配達をしていた。
自然と涙が出てきた。
天井を見ながら泣いていた。
涙をお湯でぬぐった。
あのとき頑張って良かった。
あのとき頑張ったから今の自分がある。
あのときの将来が見えない苦しさと比べれば、今の苦しさは乗り越えられる。
あのときと同じで、今も要領が悪い。
人間関係も計算できない。
しかし、あのときと同じで、一生懸命生きている。
結局、一生懸命生きることが、自分の長所なのかもしれない。
還暦を前にして、自分の人生の意味づけをしたいと思うようになってきた。
自分の人生は何だったのだろうと思うようになってきた。
糸が切れた凧のように、風に流されて生きてきた自分も、そろそろ着地するときが来たのかもしれない。